山手線で見た少年

 

 

都市圏の電車に乗ると、そこに住む人達の特徴が少し分かる。

 

関西の電車に乗って感じるのはまぁよく人が喋る。満員電車で2.3人のグループが一斉に世間話をし始めたあかつきには、車内はあらゆる話題で溢れかえる。
一方、東京の電車に乗っていると沢山の人が同じような顔で携帯を見つめ、同じような顔で電車を降り、ホームを歩き過ぎるのを目にする。

 

山手線
ホーム中に響き渡るほどの大きな泣き声で泣く赤ん坊を背中に背負い、引越しでもするのかと疑うほど大きなトランクを抱えた女性が満員の階段を登ろうとしていた。
中国語で背中の赤ん坊をあやしていたから、恐らく中国の方だろう。女性は体が少し肥えており、トランクもトランクだったから、エスカレーターには乗れそうになかった。

一段一段休憩しながら両手でトランクを、背中には泣きじゃくる赤ん坊を抱え上げながら階段を登る。赤ん坊は一向に泣き止まない。
周りの人達は対照的に、まるでその光景は自分の目に写ってないかのように颯爽と階段を登って行く。後ろが少し詰まり気味になっていたからか、少しきまり悪そうに階段を登る人達。自分にはあの人混みでトランクを抱えて持ってあげる勇気と人間力はなかった。

その時だった、部活動帰りの高校生か、ウィンドブレーカーを着た集団の中から1人の少年が階段を降りていたにも関わらず、わざわざ上って来てその女性のトランクを何も言わずに持ち上げだした。
女性は最初こそ大丈夫です…と首を横に振ったものの、その少年はやめるそぶりを見せずに力強くトランクを1番上まですんなり運び上げた。

運び上げると青年は一言「では」と背中を丸め会釈し、女性は安堵したような顔で「ありがとうございます」とお礼をしたが、その時にはすでに少年は階段の1番下までまた駆け下りて行っていた。下で待っていた仲間たちに何やら茶化されていたが、その光景を見て少年がそのグループでどんなキャラなのか分かった気がした。
無機質に人が行き交うホームにしてはあまりにも眩しすぎる光景だった。

 

数日後の帰りの電車、ボケーっと車窓から海を眺めていたら、熱海辺りでマダム2人組が乗り込んできた。観光帰りか、荷物も多く席も空いてなかったため、意を決して席を譲った。マダムの片割れが猛烈にお礼を言ってくれたから、正直嬉しかった。しかし、トンネルに入ると暗くなった車窓に自分の腹立つくらいのドヤ顔が映っていて、興ざめた。早くトンネルから抜けてくれと強く思った。席を譲ったくらいでドヤ顔するなと戒めを込めたら、あの少年を思い出した。
あの時の少年の顔は何の邪念も無く、階段の1番上を真っ直ぐ向いていた。

 

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